東京高等裁判所 昭和33年(う)378号 判決
被告人 山口辰二
〔抄 録〕
原判決がその理由に於て、被告人は株式会社小松紙店に雇われ紙類の販売並に売掛代金集金の業務に従事中単一意思の下に継続して昭和三十一年七月十九日頃より昭和三十二年四月三十日頃までの間前後十七回に亘り業務上保管に係る売掛代金合計二十七万三千五百十七円を自己の用途に費消する目的を以て擅に着服横領した旨の事実を認定判示し、これを包括一罪なりとして刑法第二百五十三条を適用して居ることは原判決書の記載に徴して明らかであるが、所論は、右被告人の着服横領罪は其の所為が一回行われただけであつても直ちに刑法第二百五十三条の構成要件を充足し其の所為が数回に亘り反覆累行されることを要しないし又それを当然の前提として成立するものでない、よつて前後十七回に亘る本件各所為は各所為毎に一罪を構成し、刑法第四十五条を適用して処断すべきであるのに、之を適用しなかつた原判決には法令の適用の誤があつて其の誤は判決に影響を及ぼすこと明らかである(昭和二十五年十二月十九日最高裁判所判例参照)と主張する。
よつて案ずるに、原判示事実はその挙示の証拠によりこれを肯認するに十分であつて、尚記録を調査するに原判決が本件同一被害者である株式会社小松紙店の売掛代金を前後十七回に亘り着服横領した所為を単一意思の下に継続して行われたものと認定したのは正当であり、斯く認むる以上之を包括一罪と見るを相当とすべきであるから、原判決が本件に付刑法第二百五十三条のみを適用し同法第四十五条の併合罪の規定を適用しなかつたのは当然であつて、所論引用の最高裁判所判例は本件には適切でなく、原判決には所論のように判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤はなく、論旨は理由がない。
(中西 山田 鈴木良)
註 本件は量刑不当で破棄